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2010年6月30日水曜日

自己免疫疾患

自己免疫疾患とは何ですか?
通常、免疫システムは細菌、ウイルス、その他侵入病原微生物を体内より消し去り、自分の体を守る働きをします。もし自己免疫疾患にかかってしまうと、この免疫システムは間違えて自分の細胞、組織、臓器を標的にして自己を攻撃してしまいます。その標的部位に免疫細胞やその細胞構成成分が集まると、そこに炎症を引き起こします。
自己免疫疾患にはさまざまなものがあります。それらの疾患においては、その疾患の標的(自己の一部)に障害を与えてしまいます。例えば、多発性硬化症という病気は直接脳に、クローン病は直接腸管に自己免疫反応を引き起こします。以上の疾患は、単一の臓器のみを傷害しますが、他の自己免疫疾患、例えば、全身性エリトマトーデス(SLE)では様々な組織、臓器を標的にして炎症を引き起こすことを特徴としています。そして、あるSLE患者においては皮膚と関節、他のSLE患者においては皮膚、腎臓、肺に炎症を引き起こすというように、障害を受ける臓器の組み合わせもそれぞれ異なり、決まっていません。1型糖尿病においては、膵臓のインスリンを産生している細胞が破壊され、結果的にインスリンの産生が出来なくなります。この様に、免疫システムによる炎症に引き起こされた障害は最終的に永久に傷跡として残ることもあります。

自己免疫疾患の原因は何ですか?
それらの病気は伝染性の病気ですか?
これまで伝染性が認められた自己免疫疾患はありません。自己免疫疾患は感染症のように他の人にはうつりません。また、AIDSに関連したものでもなく、悪性腫瘍のなかまでもありません。

それらの病気は遺伝性の病気ですか?
私たちの容姿が両親と似るのは、受け継いだ遺伝子によります。自己免疫疾患の発症においても遺伝子が影響を及ぼすとされています。ある種の疾患、乾癬などでは家族内で数例発症することがあります。このことは、ある特別な遺伝子、或いは、いくつかの遺伝子が集まったセットが原因で、家族内で乾癬が発症しやすくなっていることを示唆しています。さらに付け加えると、自己免疫疾患を持つ家族は、疾患と関わる遺伝子のセットを受け継ぎ、共有している可能性あり、そのようもののなかには、様々な自己免疫疾患を発病するものもいます。例えば、いとこがSLEを持っていて、もう一人のいとこは皮膚筋炎で、そのどちらかの母親が関節リウマチというように。また、ここで重要なのは、たとえ家族内に自己免疫疾患をもつものがいたとしても、決して全員が自己免疫疾患を発症するのではなく、自己免疫疾患が発症していない家族よりは、若干発症率が高いということです。要するに、自己免疫疾患発症の要因の一つに遺伝的影響があるということです。

何が自己免疫疾患発症に影響するのですか?
自己免疫疾患の発症には、その人が受け継いだ遺伝子が影響するだけでなく、その人の免疫システムがある種の物質に反応して引き金となったり、また環境が影響したりします。

自己免疫疾患の発症に影響を及ぼす要素としてはほかにどのようなものがありますか?
ある種の自己免疫疾患はウイルス感染などの特定の引き金により悪化することがあります。また、日光は全身性エリテマトーデス発病の引き金になるばかりではなく、その病状を悪化させることもあります。これらの病気を悪化させる要素を知り、それを避けて、自己免疫疾患の増悪を防ぎ最小限にすることが大切です。その他のあまり知られていない、免疫システムや自己免疫疾患への影響では、年齢、慢性的なストレス、ホルモン、妊娠などがあります。

自己免疫疾患はどのように診断されるのですか?
自己免疫疾患の診断は、その個人の症状、診察、検査結果に基づいていて行われます。しかし、その診断は難しく、特に病気の初期の段階では診断に至らないこともあります。自己免疫疾患の症状は、例えば、「だるさ」など病気に特異的でないものも少なくありません。また、検査成績は診断を確定する助けにはなりますが、時にそれだけでは不十分のことがあります。もしある人が関節痛などの症状を持ち、疾患に非特異的な検査では陽性である場合、その人は、早期・・・あるいは鑑別不能型結合組織病などの、まぎらわしく混乱を招くような診断がなされることがあります。このような場合、医者は経過観察するために頻回に外来で診察することとなります。患者にとっても医者にとっても病気の早い段階は非常フラストレーションがたまります。もしかしたら、症状は短期間であるかもしれないし長引くかもしれない、そして、診断のために行われる検査は、残念ながら役にも立たないかもしれません。また、しっかりとした診断がされる場合もあります。患者の発病初期の症状にたいし的確な診断がなされれば、早期の重点的な治療を可能にし、その治療の効果も良いものとなるでしょう。

自己免疫疾患はどんどん悪くなるのですか?
自己免疫疾患は慢性疾患ですが、そのたどるコースは予想できません。医者はその疾患がどのように発症しようが、その先に何が起こるであろうかを完全に予測することはできません。患者の皆さんは医者にしっかりと経過観察されることが大事です。また、病気を悪化させるかもしれない環境要因や、その引き金についてしっかりと説明を受け、またそれを避けることが大切です。そうすれば、新しい医学的治療ができるだけ早く開始することが可能となるのです。医者への継続的な受診は、医者が複雑な治療を管理し、そして薬物療法の副作用を監視するのに大変重要です。

自己免疫疾患はどのようにして治療されるのですか?
自己免疫疾患は慢性疾患であることが多く、その人が調子がよいと思っても生涯注意深く経過観察されることが必要です。しかし、最近では、治療により治癒あるいは消失する自己免疫疾患もあります。また、もし適切な医学的な治療を受ければ、自己免疫疾患を持つ多くの人も通常の生活を営むことが可能です。通常医師は、自己免疫疾患による炎症に引き起こされた病態について治療を行うことがほとんどです。例えば、1型糖尿病の患者においては、医師は上昇した血糖により腎臓、眼、血管、そして神経にダメージを与えないためにインスリンを処方し血糖値をコントロールします。しかしながら、真の目標は、炎症がインスリンを作る膵臓の細胞を破壊するのを防ぐことで、このことは血糖をコントロールするうえでも必要なことです。
一方、全身性エリテマトーデスや慢性関節リウマチにおいては、投薬により腎臓や関節に障害を与える免疫反応を遅らせたりストップさせたりすることが可能です。自己免疫による炎症を防ぐ目的で免疫反応を遅くさせたり抑制させたりすることは、免疫抑制療法と呼ばれます。これらに含まれる薬剤としては、副腎皮質ホルモン;corticosteroids(プレドニゾロン、プレドニンなど)、メトトレキセート;methotrexateMTX,リウマトレックス、メトレート)、サイクロフォスファマイド;cyclophosphamide(エンドキサン)、アザチオプリン;azathioprine(イムラン)、シクロスポリン;cyclosporin(サンディミュン)、タクロリムス;Tacrolimus(プログラフ)などがあります。しかしながら、この治療には感染と戦う免疫能も同時に抑制してしまうという重大な副作用が潜んでいます。
 これらの免疫抑制剤による治療で病気の寛解(病気を消えた状態)得ている人もいます。寛解とは医学用語で病気が「消えた」状態のときによく使われます。たとえもし病気が寛解に入ったとしても、治療が中止可能となるのはまれです。治療が中止されば病気が再燃する可能性があり、長期間の免疫抑制療法を続ければ副作用発現の可能性も増します。両者のバランスを考えることが重要です。

関節リウマチで用いられる生物学的製剤とはなんですか?
生物学的製剤とは、本来、微生物が産生した蛋白質を利用して作られた薬剤を指す言葉です。関節リウマチの炎症引き起こす原因となる物質は、以前からTNFα、IL-1IL-6などの炎症を引き起こすサイトカインであることが知られてきました。それらのサイトカインと結合し、その働きを抑えれば関節リウマチが改善するのではないかと考えて開発された薬剤が「生物学的製剤」なのです。現在、臨床的に使用されているものには薬品名としてレミケード、エンブレル、ヒュミラ、アクテムラがあります。レミケード、ヒュミラはTNFαの中和抗体を使ってTNFαの働きを抑える薬剤で、エンブレルはTNFαのレセプターに結合しTNFαの働きを抑える薬剤です。また、アクテムラはIL-6の中和抗体を使ってIL-6の働きを抑える薬剤です。この生物学的製剤の登場により、関節リウマチの治療は大きく進歩し、より寛解導入ができるようになってきました。

3 件のコメント:

  1. 山中先生、大変参考になりました。
    ありがとうございます。

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  2. 私たち素人の患者に懇切丁寧な病気のご説明を有難うございました。先生はこんなに深くいろいろなことを考察しながら診察なさっていらっしゃるのかと感動しながら読ませていただきました。最近、白血球分類のNeu(好中菌)が異常に多くなったり、Mono(単球マクロファージ)の値が多くなりました。Lympは読めますがこのあたりの読み方?発音の仕方が分かりません。それと今度、除外診断についてご教授くださると嬉しいです。こんなに詳しく教えて頂けるのでしたら、リウマチの皆さんに先生のこのブログを教えてあげる心算です。お忙しいとは存じますがお身体だけはお大切にしてブログも頑張って下さいますようお願いをいたします。

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  3. 糖尿病のことは生活習慣病だけしか認識が無かったのですが1型糖尿病が膠原病だとは全く知らなかったです。1型は遺伝性としか頭に無かったので驚きでした。罹患率はどれ位なのでしょうか。また、古くからの親しい知人で乾癬の男性がいるのですが乾癬も膠原病だったとは私も無知ですね。治療方法を聞いていて膠原病みたいだとは思いましたが、薬剤師の知人が「乾癬の人はグループホームに入所する時は断られる」と言っていたので感染するのかと誤解をしていました。やっぱり無知は犯罪に近いように思います。

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